🖐️初めに
ローコード開発による内製化は、いまや特別なものではなくなってきています。
ここではローコード開発プラットフォームとルールエンジンを組み合わせて活用した場合にそれぞれがどんな役割で、どんなメリットがあるかを挙げてみました。
🔖目次
- ローコード開発プラットフォームについて
- ルールエンジンの特徴
- ローコード開発とルールエンジンを組み合わせるメリット
- 内製化のリスクへの対応
- さいごに
📄ローコード開発プラットフォームについて
ローコード開発について述べる前に、ゼロからプログラムコードを書いて開発するスクラッチ開発にも言及しておきます。今でこそローコード開発が注目されてきていますが、これによりスクラッチ開発が無くなったわけではありません。スクラッチ開発にもメリットはいくつかあり、たとえば要件や仕様に完全に対応したソリューションを構築できます。また、制約が少ないため、独自のビジネスロジックや特殊な要件を実現することが可能です。使用する技術やアーキテクチャを完全にコントロールできます。企業のニーズを実現するための複雑な要件のあるプロジェクトでは重宝されるでしょう。
このため、スクラッチ開発には高度な開発スキルをもった経験豊富なエンジニアが必要となり、プロジェクト遂行時に適切な人材が確保できないリソース不足の課題がプロジェクトに影響を及ぼします。またスクラッチ開発の性質から開発にかかる時間とコストがとても高くなる傾向があります。
ITエンジニアの不足が重要な課題となっている中、ローコードツールは技術的な知識が少ない非エンジニアでもアプリケーションを開発できる環境を提供します。コードを書く作業を大幅に削減し、ビジュアルベースでの開発を可能にすることで、開発プロセスを大幅にスピードアップします。これにより、プロジェクト期間を短縮し、コスト削減を実現します。
ポルトガル発祥のOutSystemsは日本市場でも2010年以降に導入が進み、とくにエンタープライズ向けの開発で採用されているようです。日本発ではサイボウズ株式会社が提供するクラウド型業務アプリ開発ツールkintone(キントーン)があります。非エンジニアでも簡単に業務アプリケーションを作成できることから、ローコードツールの先駆けとして日本で広く利用されています。
具体例としては、大和ハウス工業はOutSystemsを導入している国内企業の一つです。ソフトウェア開発の標準プラットフォームとしています。(https://www.outsystems.com/ja-JP/case-studies/daiwa-house/?utm_source=chatgpt.com) 三菱重工業はkintoneを導入している大企業の一つです。アナログだった社内決裁業務をkintoneで運用できるようにしました。(https://news.mynavi.jp/techplus/article/20241108-3060542/?utm_source=chatgpt.com)
ローコード開発は便利である反面、複雑な業務ロジックを実現するには標準機能だけでなく、拡張機能やカスタマイズを活用することが必要になります。たとえばkintoneでは標準機能としてフォーム内で簡単な計算式や他のアプリとのデータ連携を設定してロジックを組み込むことができます。ただし、標準機能だけでは複雑なロジックを実現するには限界があるため、JavaScriptによるカスタマイズが必要となります。具体的にはレコード追加・編集・保存時などの各種イベントに対して処理を記述できます。保存する前にデータの妥当性をチェックしたり、入力内容に応じて別のフィールドを更新するなどの処理が考えられます。
ルールエンジンの特徴
一方で、ルールエンジンは、ビジネスロジックを管理し、システムが自動的にそれらを実行できるようにするツールです。ビジネスルールマネジメントシステム、略してBRMSと呼びます。基幹システムにおける多様なルールも実行できます。たとえば、「取引金額が一定額以上の場合に上位承認が必要である」、「購入量に応じたボリュームディスカウント」、「保険料計算」「与信スコアが基準値以下の場合に取引を保留する」「契約基幹満了30日前に通知を送信」など業種を問わずたくさんあります。これらは従来スクラッチ開発がメインで変更や新しい仕様を追加するときなどその改修には大きな工数が必要でした。ルールエンジンにはビジネスユーザーが複雑なビジネスルールを簡単に定義・変更できるUIが提供されますので、開発者に頼らずにルールの変更や追加が行えます。これにより、企業の迅速な意思決定を可能にします。IT的な特徴としては、複数のシステムやアプリケーション間でビジネスルールを統一できたり、ビジネスルール変更にかかる開発コストを削減できたりします。
ローコード開発とルールエンジンを組み合わせるメリット
したがって、変更が発生しやすく、重用な意思決定をつかさどるビジネスロジックをルール化し、ローコード開発プラットフォームから活用(呼び出す)ことでシステム全体のユーザビリティが向上し、内製化のプロセスを大幅に加速させます。また、市場の変化に対しても迅速に対応できるようになります。具体的なメリットについてみていきましょう。
1. ビジネスロジックの柔軟な変更が可能
アプリケーションからビジネスルールを外出しすることで、アプリケーションコードを変更せずにルールを更新できます。これにより、ビジネス担当者が自らルールを管理・変更できるようになり、IT部門への依存を減らし、変更作業をスピーディーに進められます。たとえば、割引率や税率など頻繁に変更が必要なビジネスルールに対応するのが容易です。
2. 発速度と複雑なロジック処理の両立
ローコードツールの直感的な操作でUIやワークフローを迅速に構築しつつ、複雑なビジネスルールはルールエンジンが担当することで、開発の効率性と精密性を両立できます。たとえば、ユーザー操作はローコードツールで実装し、バックエンドでの与信判定や価格計算といった複雑な処理はルールエンジンが担う形が実現します。
3. ビジネスルールの一元管理で効率化
ルールエンジンを活用することで、複数のシステム間で共通のビジネスルールを一元管理できます。これにより、ルールの重複管理が不要になり、全体の運用コストが削減されるとともに、業務ロジックの再利用性が向上します。たとえば、全社共通の与信ルールを複数のアプリケーションで活用するケースが挙げられます。
4. 透明性の向上と非エンジニアでも理解可能なビジネスルール
ビジネスルールは視覚化されており、ビジネス担当者や非エンジニアでもロジックを理解しやすくなります。これにより、業務の透明性が向上し、関係者間の認識のずれが減少します。たとえば、承認プロセスの条件分岐が明確に可視化されていると、ミスやトラブルを未然に防ぐことが可能です。
5. テストと検証の効率化
ビジネスルールごとに個別テストが可能であり、新しいルールが既存ルールに与える影響をシミュレーションできます。これにより、ルール変更に伴うリスクを最小化し、IT部門の負担を軽減できます。たとえば、新しい税制対応をテスト環境で検証した後、即座に運用に反映できます。
6. スケーラビリティの向上
BRMSは膨大な条件を効率的に処理するため、ローコードツールの負荷を軽減しつつ高いパフォーマンスを維持できます。これにより、大規模な業務やトランザクションの処理が可能になります。たとえば、ECサイトでのリアルタイム価格計算や在庫管理に対応できます。
7. トータルコストの削減
ルールの変更や運用にかかるコストを削減できます。また、ルールを複数のシステムで共有することで、重複した開発作業を防ぎます。これにより、システム全体の運用効率が向上します。
8. ビジネスとITの連携を強化
ローコードツールの簡便な開発プロセスとルールエンジンの強力なビジネスルール管理機能を組み合わせることで、ビジネス部門とIT部門の連携がスムーズになります。たとえば、マーケティング部門が新しいキャンペーンルールを提案し、それをルールエンジンに迅速に反映することで、競争力を高めることが可能です。
内製化のリスクへの対応
ローコード開発ツールを活用した内製化には、迅速なシステム構築やコスト削減といった多くのメリットがありますが、一方で、いくつかのリスクも存在します。その中には、業務ロジックの複雑化、ルール管理の属人化、運用効率の低下、そして規制対応の難しさなどが挙げられます。これらのリスクに対処するために、ルールエンジンを活用することが非常に効果的です。以下に、ルールエンジンがこれらのリスクにどのように対応できるかを挙げてみます。
1. 業務ロジックの外部管理で保守性の向上
ローコード開発ツールは直感的な操作でシステムを構築できる一方で、複雑な業務ロジックを直接ツール内に組み込むと、メンテナンスが困難になるリスクがあります。ルールエンジンを導入すれば、業務ロジックをアプリケーションから分離して管理できるため、ロジックの変更や更新が容易になります。また、ルールが外部化されることで、アプリケーション側のコードがシンプルになり、システム全体の保守性が向上します。
2. ルール管理の属人化の防止
内製化では特定の担当者がビジネスルールを管理するケースが多くなり、その担当者が退職したり異動した場合に、それらがブラックボックス化するリスクがあります。ルールエンジンはビジネスルールを視覚化し、GUIを通じて編集や変更が行えるため、非エンジニアの業務担当者でも理解しやすく、チーム全体で管理を分担できます。
3. 運用効率の低下への対応
ローコードツールで構築したシステムでは、複数のアプリケーションがそれぞれ独自のビジネスルールを管理している場合、変更や調整に手間がかかり、運用効率が低下する可能性があります。ルールエンジンを使用することで、ルールを一元管理でき、複数のシステムで共通して利用できます。これにより、ビジネスルールの更新作業を一箇所で行うだけで済み、全体の運用効率が大幅に向上します。
4. 規制対応や監査リスクの軽減
内製化では、規制変更や監査への対応に不安を感じる企業も多いですが、ルールエンジンを活用すれば、これらのリスクに対応できます。ルールエンジンはルールの変更履歴を自動で記録するため、規制対応の証跡を残すことが可能です。また、ビジネスルールの変更が特定の条件に基づいて正しく実行されているかを検証できる機能も備わっている場合が多く、監査やコンプライアンス対応の負担を軽減します。
5. パフォーマンスとスケーラビリティの確保
内製化で作成されたシステムでは、大規模なデータ処理や複雑な条件分岐に対応する際、処理性能が問題になることがあります。ルールエンジンは、こうした複雑なロジックを効率的に処理するために設計されており、システム全体のパフォーマンスを向上させることができます。また、将来的に処理規模が拡大してもスケーラブルに対応できるため、長期的な運用にも耐えられる基盤を提供します。
6. 開発と業務部門の連携強化
ルールエンジンを導入すると、業務部門が直接ビジネスルールを管理できるため、IT部門とのやり取りを減らし、連携がスムーズになります。業務部門が主体的にルールの変更や調整を行えるため、要件変更にも迅速に対応でき、システムがビジネスの変化に遅れずついていけます。
ローコード開発ツールによる内製化のリスクに対して、ルールエンジンを活用することで、業務ロジックの管理や運用の効率化、規制対応、属人化防止など、さまざまな課題に対応できます。これにより、内製化プロジェクトはより安定的かつ柔軟に進められるだけでなく、システム全体の持続可能性が高まります。ルールエンジンとローコードツールの組み合わせは、内製化の成功を後押しする強力な基盤となります。
🎯さいごに
最後に、これからの企業にとって、ルールエンジンとローコード開発の活用はもはや重要な選択肢の一つとなるでしょう。内製化を推進することで、より迅速な意思決定が可能になり、ビジネスの成長を加速させることができます。これからの時代において、柔軟性と効率性を兼ね備えたアプローチをとることが成功の鍵となりそうです。