🖐️初めに
現代の企業が抱える課題のひとつに「業務の効率化と柔軟な対応力」があります。この課題に対してAIとBRMS(Business Rule Management System)の組み合わせがどのように効果をもたらすのか、実際の事例を交えながらご紹介します。
🔖目次
- AIとBRMSの基礎と背景
- 今回紹介する事例について
- 事例1:自動車リース会社での請求書チェック業務の効率化
- 事例2:受発注・納期回答業務における業務品質の平準化
- InnoRulesの強み:接続インターフェースの多様性
- DIKWピラミッドで見る情報活用
- さいごに
AIとBRMSの基礎と背景
AIの前身であるエキスパートシステムは、特定分野の問題をルールベースで解決する方法として1970~80年代に誕生しました。一方、BRMSは企業の業務ルールを効率的に管理し、IT部門に依存せずにルールの変更を可能とするツールです。特に、InnoRulesはこのBRMS領域で重要な製品であり、簡単にルールを作成し、実行できることで注目を集めています。AIとBRMSを組み合わせることで、推論から判断までの業務自動化が可能となり、企業の柔軟性を大幅に高めることが期待されています。
今回紹介する事例について
今回ご紹介するのは、エキスパートシステムから進化したイノルールズと、第3次AIブームで注目されているディープラーニング(深層学習)および画像認識技術を組み合わせたケースです。
近年の研究では、ディープラーニングによる結論が出た際、その結論に至る理由が説明しにくい場合があるため、特定のビジネス領域での活用が難しいと考えられています。しかし、適切な領域に応用することで、BRMSと組み合わせた業務効率化が可能になります。
通常の業務でも、過去の経験や知識を基に推論しながら進める場面は多いでしょう。
ディープラーニングとBRMS
例えば、原子力発電所での機器点検業務では、機器の状態を測定し、その結果を過去の膨大なデータや知識を使って原因を推定します。そして、得られた推定結果に応じて、部品の交換、修理、設定変更、観察などの適切なアクションを取ります。
このプロセスを見てみると、前半の膨大なデータから候補原因を導き出す部分は、AIが得意とする領域です。一方で、後半の具体的な条件からアクションを決定する部分は、BRMSが得意とするところです。このように、推論や推定結果に基づき、次の判断処理が行われています。
もしすべてのプロセスをBRMSだけで実現しようとすると、ルールの数が膨大になり、かえって複雑で実現が難しくなるでしょう。そのため、業務全体の自動化率を高めるには、推論と判断を統合的に自動化する仕組みが必要です。
AIとBRMSのそれぞれの強みを活かした業務自動化が、どのような効果をもたらすのかについて、これから具体的な事例を通じてご紹介します。
事例1:自動車リース会社での請求書チェック業務の効率化
ある自動車リース会社では、月に10万件もの紙ベースの請求書が修理工場から送られてきます。請求書の内容をもとに、リース会社の担当者は、修理の妥当性や金額の適正性を目視でチェックする作業を行っていました。しかし、膨大な量の請求書を10人のスタッフで処理するため、チェックミスや遅延が頻発していました。
リース会社の現行業務
課題
- 請求書がすべて紙ベースであり、入力作業に時間がかかる。
- 手書きの部品番号や金額の誤記載による確認作業が複雑。
- 人手に頼るため、担当者のスキルに依存し、処理結果にばらつきが発生する。
ソリューション
ステップ | 説明 | 詳細 |
---|---|---|
1. AIOCRを活用したデジタル化 | 紙の請求書をデジタル化 | - AIOCR(AI Optical Character Recognition)を用いて、手書き文字を自動的にデジタルデータに変換 - 部品番号や金額を認識するが、曖昧な箇所がある場合は次のステップへ |
2. ディープラーニングによる部品番号の補正 | 部品番号の推定 | - 不明瞭な部品番号や誤記の場合、ディープラーニングによる推論を使用 - 過去の請求データやリース車両のメンテナンス履歴をもとに適切な部品番号を特定 |
3. BRMS(InnoRules)によるルールチェック | データのルールチェック | - 補正されたデータがInnoRulesに渡され、ビジネスルールに基づきチェック |
4. ルールチェックの内容 | 主なルール | - 部品の単価が基準値内か - 修理内容がリース契約条件に合致しているか - 同一部品が短期間で繰り返し交換されていないか |
5. 結果の自動仕分けと処理 | 処理内容の分岐 | - 問題がない場合:会計システムに連携し支払い処理を進行 - 判断が困難な場合:請求書確認チームに自動アラート発行 - 修正が必要な場合:修理工場に「気づきメッセージ」を付加し再提出を依頼 |
効果
項目 | 内容 |
---|---|
処理時間の短縮 | 月10万件の請求書チェックが従来の50%に短縮 |
チェック精度の向上 | AIによる曖昧なデータの補正とBRMSによるビジネスルールチェックでミスが減少 |
修理工場へのフィードバック | 「気づきメッセージ」により修理工場のミスが減少し、請求書の再提出頻度が低下 |
参考資料:「AIとBRMSの効果的な利用方法に関する研究」(平野健次)日本生産管理学会論文誌
気づきメッセージの具体例:
- 「車種Aのフェンダー修理は板金ではなく、コンポーネント部品の交換を推奨します。」
- 「車種Bの洗浄剤ノズルは角度調整ではなく部品の交換が必要です。」
このようなメッセージにより、修理工場での作業品質も向上し、結果的に業務全体の効率化が図られました。このような気づきは「ビジネス知識」となり修理工場からの請求内容ミスもおのずと減少することで根本的な業務品質の向上につながります。
また、ビジネス知識は時間とともに変化していくものですから、業務プログラムなどからは独立させて管理することで変更しやすくなります。ビジネス知識の活用にはBRMSの利用が効果的な理由でもあります。BRMSで自動化することでそれ以上のメリットが享受できているケースです。
事例2:受発注・納期回答業務における業務品質の平準化
ある製造業の企業では、顧客からの納期問い合わせをメールで受け付け、その後、製品の在庫状況や生産予定をもとに納期を回答する業務を行っていました。しかし、ベテラン社員と新人社員の間で対応にばらつきがあり、顧客満足度に影響を及ぼすケースが増えていました。
現状の受発注・納期回答業務
課題
- ベテラン社員は顧客ごとの優先度を考慮して柔軟な対応ができるが、新人社員は先着順に処理するため、重要顧客への対応が遅れることがあった。
- 在庫引き当てや納期調整の判断に多くの時間を要し、迅速な対応が難しい。
- ミスが発生すると、後続の生産スケジュールに影響を及ぼす可能性がある。
ソリューション
ステップ | 説明 |
---|---|
AIによる顧客情報の解析と優先度付け | 過去の取引履歴、契約内容、発注頻度、クレーム履歴などをAIが解析し、各顧客の優先度を自動的に決定。新人社員でも優先順位に従い適切に処理を開始可能 |
BRMSによる在庫引き当てと納期調整 | AIで決定した優先度をもとに、BRMSが在庫状況や生産計画をリアルタイムに参照し、以下のルールで納期を自動調整; ・在庫がある場合は即時引き当て ・在庫不足時は生産スケジュールを確認し最短納期を提示 ・特定顧客には在庫を優先的に割り当て |
納期回答の自動化と調整依頼 | 最終的な納期をメールや社内システムを通じて顧客に送信し、必要に応じて調整依頼を自動で発行。 |
効果
項目 | 説明 |
---|---|
業務の平準化 | ベテラン社員と新人社員の対応品質の差がなくなり、どの担当者でも同じ品質のサービス提供が可能に。 |
迅速な納期回答 | 従来は数日かかっていた納期回答が、数時間以内に完了するように改善。 |
在庫ロスの最小化 | 在庫の優先度付けとリアルタイムな引き当てにより、余剰在庫や欠品リスクを低減。 |
参考資料:「AIとBRMSの効果的な利用方法に関する研究」(平野健次)日本生産管理学会論文誌
このようなAIとBRMSを組み合わせた意思決定の出し方は、コールセンターや機器点検
など多様な業種に応用が出来るものとして研究されています。
DIKWピラミッドで見る情報活用
事例1を情報活用の階層モデルであるDIKWピラミッドに当てはめると、次のようになります:
階層 | 役割 |
データ | AIOCRによる紙請求書のデジタル化。 |
情報 | ディープラーニングによって部品番号などの曖昧な情報を特定。 |
知識 | InnoRulesでビジネス知識に基づくロジカルチェックと気づきメッセージの生成。 |
知恵(Wisdom) | AIとBRMSによる継続的な知識の資産化と業務効率化。 |
所があり、それぞれ性質が異なるため、それに応じてソリューションを当てはめることがポイントとなります。ディープラーニングの分野は目覚ましい成果が得られています。そして、BRMSは今後も強力なデジタルツールとして使い続けられるでしょう。柔軟性と俊敏性を得られしかも実行可能です。また、なぜこのアクションを実行するのかというビジネス上のコンテクストを記述し管理することができる点でビジネス的なメリットはとても高いと考えます。
さいごに
今回紹介した2つの事例から、AIとBRMSを組み合わせた業務自動化には以下の重要なポイントがあることがわかりました:
メリット | 具体的内容 | 事例 |
---|---|---|
業務の効率化と処理スピードの向上 | AIによるデータの精緻化とBRMSによるルールベースの判断の自動化により、業務プロセス全体のスピードが大幅に向上。 | 事例1:50%の処理時間削減を実現 |
業務品質の平準化と属人性の排除 | AIが客観的な優先度付けを行い、BRMSが標準化されたルールに基づいて判断することで、担当者に関係なく一貫した品質を提供可能に。 | 事例2:対応結果のばらつきを解消 |
ビジネス知識の資産化と継続的な成長 | 業務ノウハウをBRMSにルールとして蓄積し、継続的な改善・拡張が可能。 | 事例1:「気づきメッセージ」で修理工場の作業品質が向上 |
事例にはありませんが、ビジネス担当者がプログラミングの知識なしでルールの設定や変更を行えるため、IT部門に頼ることなく迅速な対応が可能になります。また、AIとBRMSの進化により、業務自動化の精度がさらに高まり、ビジネスプロセスの最適化が実現します。その結果、企業の競争力が向上し、新規事業の立ち上げや他部門への展開もスムーズに行えるようになります。
AIとBRMSによるビジネスメリットは業務効率化にとどまらず、企業内のナレッジを資産として蓄積し、次世代の成長基盤を築きます。AI技術の進化により、今後BRMSはさらに多様な業種や複雑な業務課題の解決に役立つと期待されます。