プロセスとルール
業務システムの構築や改善に関わっていると、「プロセス」と「ルール」という言葉を耳にすることが多いのではないでしょうか。ITソリューションの世界では、これらはBPMS(ビジネスプロセス管理システム)とBRMS(ビジネスルール管理システム)というワードで表されます。これらは切っても切れない関係にありますが、実はこの二つの付き合い方を見直すだけで、システム開発や運用が劇的に楽になることをご存知でしょうか?
今回は、昔から相性抜群と言われるこの二つのソリューションが、なぜこれほどまでに相性が良いのか、その秘密を紐解いてみたいと思います。
そもそも「プロセス」と「ルール」はどう違う?
まずは、身近な日常の例を通して、「プロセス」と「ルール」の違いを整理してみましょう。
たとえば、横浜から東名高速道路を使って御殿場へ向かう場面を考えます。「横浜ICから東名高速を通り、御殿場へ行く」という一連の道筋はプロセスにあたります。このルート自体は、基本的に毎回変わるものではありません。
一方で、何度も同じ道を走るうちに、「この時間帯は渋滞しやすい」「この時間に出発すれば混雑を避けられる」といった経験則が蓄積されていきます。こうした判断の拠り所となる知識がルールです。
仮に「午前11時までに到着する」という目的がある場合、交通状況に応じて出発時間を早めたり、走行ペースを調整したり、休憩の取り方を変えたりと、状況に応じた判断が求められます。ルートは同じでも、適用するルールはその都度変わります。
このように、プロセスは比較的安定しているのに対し、ルールは状況に応じて柔軟に変化します。私たちは日常的に、経験に基づいたこうした知識を使い分けて行動しています。ビジネスの文脈で言えば、これらがビジネスルールに相当します。

BPMSとBRMS
まず用語を整理します。ビジネスプロセスを扱うシステムはビジネスプロセスマネジメントシステム(BPMS)、ビジネスルールを扱うシステムはビジネスルールマネジメントシステム(BRMS)と呼ばれます。
はじめに、この二つの役割の違いを明確にしておきましょう。
BPMSが扱う「プロセス」とは、「誰が・いつ・何をするか(Who/When/What)」という業務の流れ、いわゆるワークフローです。仕事をどの順序で進めるかを定義した手順と考えると分かりやすいでしょう。
一方、BRMSが扱う「ルール(意思決定)」は、「なぜ、どのように判断するか(Why)」を定義するロジックです。たとえば、「会員ランクがゴールドの場合は割引率を適用する」「合計金額が100万円以上であれば部長承認に回す」といった条件判断が該当します。
以下の図では、ローン審査を例に、プロセスとルールがどのように役割分担しているかを分かりやすく示しています。ここで、ルールはプロセスから外だしされていることに注目してください。

なぜプロセスの中にルールを入れてはいけないのか?
多くのシステムでは、「ルール」を「プロセス」の中に埋め込んで設計してしまいがちです。しかし、プロセスにルールをハードコーディングしたり、業務プロセス図上で複雑な分岐として表現したりすると、さまざまな問題が生じます。
代表的なのが、次の二点です。
- プロセス図が複雑化する
すべての判断条件を分岐(ゲートウェイ)で表現しようとすると、図は急速に肥大化し、いわゆる「スパゲッティ状態」になります。その結果、全体像を理解できる人がいなくなります。 - 変更に対応しにくい
数値を一つ変更するだけでも、プロセス全体の修正や再ビルド、テストが必要となり、改修コストとリードタイムが増大します。
ここで押さえておくべき重要な点があります。本来、プロセス(業務の流れ)は一度定義すると、頻繁に変更されるものではありません。たとえば、「注文を受け付け、在庫を確認し、出荷する」といった大きな業務の流れは、数年単位で見てもほとんど変わらないケースが多いのです。
以下の図はIDS-Scheerの資料を引用しています。プロセスの中に分岐条件のルールを記述したのが左側で、ディシジョンテーブルとして外だししたのが右側のイメージです。右側の方がだいぶシンプルで分かり易いのではないでしょうか。プロセスにはルールを持ち込まず、外だしして管理するのが定石です。

出展:IDS-Scheerのルールアーキテクチャ資料より抜粋
ユーザーが変えたいのは「プロセス」ではなく「ルール」
現場のユーザーから「業務プロセスが変わったのでシステムを直してほしい」と言われる時、よく話を聞いてみると、実は「プロセスを変更したいのではなく、ルールを変更したい」というケースがほとんどです。
- 「キャンペーン期間中だけ割引率を変えたい」
- 「審査の基準を少し緩和したい」
- 「法改正で税率が変わった」
これらはすべて「ルール」の変更です。プロセスの骨格は変わっていないのに、これらを一緒に管理してしまうため、ルールの変更のたびにプロセス全体をリビルド(再構築)しなければならないという非効率が生まれてしまうのです。
ルールを「外だし」するメリット
そこで登場するのが、「ルールをプロセスから外だしして、BRMSで管理する」というアプローチです。
BPMSとBRMSを組み合わせると、システムは驚くほど「強固でかつ柔軟」になります。メリットをいくつかあげてみます。
1. プロセスがシンプルで美しくなる
複雑な判断ロジックをごっそりBRMSへ移すことで、BPMS側のプロセス図からは無駄な分岐が消え、シンプルで直感的な「業務の流れ」だけが残ります(Streamlined Processes)。
2. リビルドなしでダイナミックに変更反映
BPMSとBRMSは「疎結合」で連携します。これはどういうことかというと、プロセス本体を止めることなく、ルール部分だけを独立して入れ替えることができるのです。ルールを変更しても、プロセスをリビルドする必要はありません。あたかも部品を交換するかのように、ダイナミックにビジネスの変化に対応できます。
3. ルールの可視化と運用性向上
BRMSで管理されたルールは、デシジョンテーブル(表形式)などで表現され、ITの専門家でない業務担当者でも読み書きができるようになります。ブラックボックス化していた判断基準が「可視化」され、運用や監査が劇的に容易になります。

結論:プロセスとルールは最強のパートナー
プロセス(BPMS)は、業務の流れを安定して回す役割を担います。一方で、ルール(BRMS)は、頻繁に変化するビジネス環境に即応するための「判断の知能」として機能します。
このように役割を明確に分けることで、両者の強みを最大限に活かすことができます。プロセスとルールは、それぞれの特性を理解したうえで適切に組み合わせることで、より大きな効果を発揮する、相性の良いソリューションです。
もし現場で「プロセスの修正」に追われている状況が続いているなら、原因はプロセスそのものではなく、「ルール」の在り方にあるのかもしれません。今こそ、ルールを見直すタイミングと言えるでしょう。