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変化に追いつくその決め手! BRMSはいかにして生まれたか?

2025年6月12日 by
変化に追いつくその決め手! BRMSはいかにして生まれたか?
innorules, イノルールズ株式会社

プログラムでは難しかった迅速な意思決定を実現するBRMS。AI技術からルールエンジンの進化、そしてビジネスルールの内製化へのあゆみをたどります。

現代のビジネス環境では、変化に迅速に対応し、競争優位性を維持するために、より速く、より柔軟な意思決定が求められています。このような背景から注目されているのが、ビジネスルール管理システム(BRMS)です。しかし、BRMSは突如として現れたものではありません。その誕生の背景には、人工知能(AI)研究の黎明期にまで遡る、長い技術の進化の歴史があります。今回は、BRMSがどのように生まれ、どのような技術の流れの中に位置づけられるのかを、その歴史を辿りながらご紹介します。 


1.AI黎明期とエキスパートシステムの誕生


ルールテクノロジの歴史は、1950年代のAI技術までさかのぼります。計算機の発展とともに、人間のような知的活動を行う機械を作ろうという試みが始まりました。この研究分野は、1956年の“ダートマス会議”において“Artificial Intelligence(人工知能)”と呼ばれるようになります。

AI技術の一つとして登場したのが、エキスパートシステムです。これは、特定分野の専門家(エキスパート)の判断をコンピュータで模倣・代行するシステムです。知識ベースに蓄えられた専門知識と、それを処理する推論エンジンを用いて、専門家に近い判断を下すことを目指しました。

最初のエキスパートシステムとしては、1974年に開発された医療診断システム「MYCIN」が知られています。

また、推論ルールを記述するためのプログラミング言語として、1972年に開発された述語論理に基づくPrologが広く用いられました。開発を支援するツールも登場し、米国NASAで開発されたCLIPS(C Language Integrated Production System)はその一つで、現在はオープンソースとして公開されています。エキスパートシステムは、専門知識を持たない人が専門家の知見を利用する手段としても想定されていました。

しかし、エキスパートシステムは豊富な知識データと的確な推論能力が求められるため、その開発には高度な技術が必要でした。主に専門分野の学術研究用途で利用されてきたこれらの技術は、まだビジネスの分野で広く使われるまでには至っていませんでした。


2.意思決定支援システム(DSS)との違いと共通点


エキスパートシステムは専門家の知識を形式化し、判断や助言を自動で行う仕組みですが、これとは別に意思決定支援システム(DSS)という流れもありました。

DSSは、1970年代にMITのスコット・モートン博士らによって、MIS(Management Information System:経営情報システム)の発展形として提唱されました。

意思決定者が自らデータを検索・分析・シミュレーションすることで、自律的な意思決定を支援するのがDSSの特徴です。MISが定型的な業務を対象とするのに対し、DSSは非定型な意思決定に対応し、柔軟な情報活用を可能にします。

エキスパートシステムとDSSは異なるアプローチを取りますが、どちらも人間の意思決定を支えるという共通の目的を持ち、後に融合・発展していきます。


3.ルールベースシステムの進化とRETEアルゴリズム

エキスパートシステムで用いられたルールベースシステム(プロダクションシステム)は、「もし〜ならば〜する」という形式のルールと、事実の集合(ワーキングメモリ)を用いて推論を行う仕組みです。

1970年代から1980年代にかけて、エキスパートシステム向けにさまざまな推論アルゴリズムが開発されましたが、当時のコンピュータでは、ルールの前件と事実の照合に多くの時間が費やされるという課題がありました。

この照合処理の効率化を目指して考案されたのが、RETEアルゴリズムです。RETEアルゴリズムは、ルールの前件条件を木構造のようなネットワークに変換し、条件の共通部分を再利用することで照合処理を高速化し、ルールベースシステムの実用性を大きく向上させました。

しかし、ルール数やデータ量の増加に伴う課題は残り、さらなる高速化を目指した改良手法も提案されています。動的な最適化手法なども検討されましたが、メモリ消費の増大といった新たな課題も生じました。現在でも、ルールエンジンベンダーによって、RETEを採用している場合や、RETEを改良、あるいは独自のアルゴリズムを開発している場合があります。


4.ビジネス用途への転換と「ビジネスルール」の重要性へ

ルールエンジンの登場当初は、RETEアルゴリズムに代表されるような照合処理の高速化や実行性能といった技術的側面が主に注目されていました。しかし、1990年代前半になると、ビジネス用途として使えるように開発環境が整備され始めます。

これにより、それまで専門家の間で利用されてきたルールベース技術は、ビジネスルールシステムとして一般のビジネス分野で利用されるようになりました。商用のルールシステムが登場してから、まだ40年にも満たない比較的歴史の浅い分野と言えます。

そして、「ビジネスルール」という言葉が示すとおり、技術的な側面に加えて、業務担当者であるビジネスユーザー自身が使えるツールであるかどうかが重視されるようになっていきます。


その背景には、変化の激しいビジネス環境において、企業が迅速かつ柔軟に意思決定を行う必要があるという状況があります。従来のように、プログラムにルールを直接埋め込んだり、外部の開発ベンダーにルール変更を依頼したりしていては、変化のスピードに追いつけません。そのため、ルールの内製化に力を入れる企業が増えていきました。

このような流れは、レガシーシステムからオープンプラットフォームへの移行といった、企業ITの構造的な変革とも連動しています。


BRMSの誕生

エキスパートシステムによる知識処理のアプローチと、DSSによる意思決定支援のアプローチは、人間の意思決定を補完・強化するという共通の目的を持ちつつ、それぞれ発展を遂げました。

そして、先に述べたように、ルール技術がビジネス用途に展開し、ビジネスユーザー自身がルールを管理・変更できることの重要性が増す中で、これらのアプローチを統合・発展させた形で、ビジネスルール管理システム(BRMS)が実用化されました。BRMSは、ルールベースの知識処理と意思決定支援を融合した、より柔軟なシステムとして、ビジネスの迅速な変化に対応するために不可欠なツールとなりつつあります。

技術的な効率化を追求する時代から、ビジネスの変化に即応するために、ビジネス部門が自らルールをコントロールできるツールへと進化してきた過程が、BRMSの現在を形作っています。